横顔の君
実家はやっぱりほっとする。
妹と父がいなくなった家はどこか寂しい気もするけれど、身内との暮らしは、一人の時とはずいぶん違ってとても安心出来た。



駅前には、募集してるお店や会社がたくさんあったけど、私は、駅から少し離れた小さな会社の事務職に就いた。
通勤も自転車で出来るからとても楽だ。



引っ越しの荷ほどきも済み、母親と二人の暮らしにも慣れ、ようやく気持ちにゆとりが出て来て、私はこうして休みをのんびりと楽しめるようになった。



(そういえば……)



その時、私の頭に浮かんだのは、子供の頃よく通った古本屋さんのことだった。
元々、本は好きだったけど、古本屋さんの本屋さんとは少し違う独特の雰囲気が好きだった。
言ってみれば、古本屋さんは『特別な本屋さん』だ。
普通の本屋さんには置いてないような漫画もあったし、しかも、値段が安い。
お店に来る人も少なくて、いつも静かでどこか緊張した空気が漂っていた。

小さなカウンターには、おじさんが座ってて、いつも俯いて本を読んでた。
その横顔は、とても知的で、とても真剣で…読書の邪魔をするのが申し訳なくて、私は声を掛けるのをいつも躊躇ったものだ。



(あの古本屋さん、まだあるのかな?)



ふとそんなことを考えたら、矢も盾もたまらず、私は記憶を頼りに古本屋さんを探しに向かった。

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