横顔の君




「今回もすごいですね。
でも、あんまり気を遣わないで下さいね。
僕はおむすびと卵焼きだけで、十分ですから。」

今度もまたお弁当を作った。
もちろん、また予算も手間暇もいつもより掛けて。
だけど、その労は報われる。
照之さんは、とても喜んでくれるし、おいしそうにパクパク食べてくれるから。



照之さんは先日買った服を着ていた。
そのせいか、今日は最寄駅から一緒の電車に乗って来た。
服装のコンプレックスがあったっていうのは、やっぱり嘘ではなさそうだ。
そんなこと、気にしなくて良いのに…
逆に、照之さんがあんまり格好良くなりすぎたら、こっちの方が気おくれしてしまう。



「ここはずいぶんひんやりしてますね。
夏なんか、気持ちが良さそうですね。」

「そうですね。
また夏にも来てみましょう。」

他愛ない会話…
ハーブを見てまわって、お腹が減ったらお弁当を食べて…



三十代のデートにしては、ちょっと穏やか過ぎるかもしれない。
でも、私達はまだ恋人同士ってわけでもないし、これはデートでもないんだから…



「あぁ、おなかいっぱいです。」

今日も照之さんは米粒の一粒も残さずに、完食してくれた。
頑張って作ったものだから、残さずに全部食べてもらえると本当に嬉しくなる。



「本当ならここで抹茶パフェでも食べたいところでしょ?」

「ハハッ、よくわかってらっしゃいますね。」

あんまり冗談は言わない方だけど、思い切って言ってみたら笑ってもらえた。



「吉村さんは、ハーブとかはお好きなんですか?」

「はい、けっこう好きです。」

「そうでしたか、良かった…
ハーブは好き嫌いが分かれますからね。
お誘いした後で、そんなことに気付いて、大丈夫だったかなってちょっと心配してたんです。
じゃあ、さっきの喫茶コーナーで、ハーブティでもいかがですか?
抹茶パフェがないのは残念ですが…」

私達はお互いに微笑みながら、喫茶コーナーに向かった。



照之さんと一緒にいると、本当に気持ちがやすらぐ。
言ってみれば、照之さんはハーブみたいな人だ。
私の心をとてもリラックスさせてくれる。



本当ならここで手を繋ぎたいところだけど、それはまだ早い。


私にはそれを言い出す勇気もないんだもの…



そんな自分自身に少々落ち込みながらも、ただ並んで歩けるだけでも嬉しかった。
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