ヒーローに恋をして
宇野は細めた目で桃子を見つめて言った。小さく息を飲む音が隣から聞こえる。

 ワーッと歓声が上がった。おもわず視線を向けると、舞台の上でプラネットが鮮やかに決めポーズをしている。子どもたちが興奮したように立ち上がってジャンプしている。

「なりたくないかい? ヒーローに」
桃子の視線を追った宇野がそう言った。おもわず宇野を見ると、宇野はニヤリと笑った。

「きみもヒーローになれるよ」

 ヒーローに。

 もう一度舞台に視線を向ける。たくさんの子どもたちやその親が手を振っている。決めポーズで応えるプラネットが、白い照明の下輝いている。

「ももちゃん」
 なぜか泣きそうな顔でコウがこっちを見ていた。プラネットをかっこいいと言ったコウ。

 コウを見返しながら思う。
私もヒーローになれば、また前みたいに言ってくれるんだろうかと。
 ももちゃんは僕のヒーローなんだって。

 ぎゅ、とこぶしを握りしめた。

 なってやる。

 ヒーローになってやる。
 プラネットには負けない。

「キミが明日のヒーローだ!」

 舞台の上でプラネットがそう言って観客たちを指さした。桃子はクッと顎をそらす。

「私、ヒーローになる。芸能界に入る」
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