ヒーローに恋をして
 桃子の手を、というより手首を握る手が熱い。力強く引っ張られ、ピンと張った腕は痛みさえ覚える。それなのに激しく鳴る心臓の音が、痛みをあっという間にぼやりとした感触に変えていく。

 コウはいつにない乱暴なしぐさでエレベーターのボタンを押すと、そのまま大股で乗り込んだ。
上昇する箱の機械音に、桃子の頭は少し冷静になる。
 どこか怒ってるように見える横顔に、
「あの」
 ためらいながら声をかけると、コウが目を合わさずに形の良い唇を噛みしめた。なにか、痛みに耐えるような顔。
 動物的本能が、狭い箱の中桃子を後ずさりさせる。けれど手首を捕まむ手が離れることを許さず、ぎゅっと握りこまれた。心臓が体のあちこちで鳴る。からだが熱い。

 この先で待っているのがなんなのか、もうわかってる気がしている。だめだ、と言葉だけが意識の上を滑っていく。

 ティン。

 エレベーターが止まる音が、やけに大きく聞こえた。
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