十一ミス研推理録 ~自殺屋~
「とにかく、ここじゃあ言えないの。明日なら話せるし、それに人が多いほうがいい……」
 言ってから久保は視線を落とすと、それっきり口ごもってしまった。同じ女という立場から、裕貴は彼女の思いを読み取ったのだろう。
「私は行けるよ。明日、プラマイと絶対に行く。時間は? 何時?」
 元気に自ら声を張りあげて言う。久保は安心したのか、先程の影を払うように笑った。
「十時くらいに……私から東海林君の家に電話する。そしたら、来てくれる?」
「久保さんとこなら、歩いて三分くらいで着くよ。プラマイが嫌って言っても、私が無理やり引っ張ってくから、安心して」
 いつの間にか裕貴中心で話が進行している。十一朗は溜め息をつくしかなかった。裕貴の答えを聞いて、久保は跳ねるように体を翻した後、部員全員に向かって手を合わせた。
「ごめん、今日は大事な用事があるから、帰るね」
 翌日会うとだけ約束した久保は、部室で時間を潰さずに慌ただしく出て行ってしまった。
 大事な用事が何なのかは訊けなかった。去っていった久保を見て、残ったミス研一同で、顔を見合わせる。
「じゃ、今日の活動、真面目にはじめようか」
 十一朗の活動開始を合図に、アホな活動――ではない題材に変えて、その日は終了時間まで残った。
 今日の活動内容、公開自殺について。なぜ自殺するのか? なぜ自殺してはいけないのか?
 何年にもわたって繰り返されてきた論争が、ミス研数人で簡単に結論づけられるわけもなく、皆が口を揃えて言う「命は大切だから」「家族が悲しむから」という答えとなった。
 自分の命の価値は本人のみが知る。最後に十一朗が活動日誌に記録して、ミス研一同、それぞれの帰途に就いたのだった。
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