美男子の恋事情!
『待てよ』と追い掛けても、足を止めない。
あー!イライラする!
『おい!お前良い加減にしろ!』
家を出てすぐの所で腕を掴む。
容赦はしない。多分、相当痛いだろう。
『ホント何なの、おまーー、』
“お前”と口を開き掛けて口を噤んだ。
息を飲んで目を見開く。
俯いたままの春香の横顔があまりにも切なくて言葉を失ったと言った方が妥当かもしれない。
『放っといてよ。大ちゃんには関係ないじゃん。大ちゃんはお姉ちゃんのことだけ優しくしてなよ』
『春香……』
『他の女の子にまで優しくしてたら、いつかお姉ちゃんに嫌われちゃうよ』
これは……こいつは、本当に春香か?
泣きそうなのを必死で堪えて笑顔を見せる春香は、俺の知ってる春香じゃなかった。
しょっちゅう頬に擦り傷があったのに、それを感じさせないほどきめ細かい滑らかな白い頬。
ふんわりと香るのはシャンプーだろうか。いつも家族共用の安い物を使ってたはずなのに、今日は花の甘い香りがする。
眉毛を整え睫毛を上げて、唇には薄いピンクのリップ。
丸顔だった顎はシャープになり、身体の線は折れてしまいそうなほど細い。
目の前にいる春香は、泥だらけになりながら大泣きしてたあのガキじゃない。
どんどん成長してる。大人の女になるために。