ほたるの初恋、消えた記憶
校門を出ると健人が待っていた。


どうしているの?


「美幸に頼まれた。」


え、美幸に断ったのに。


「美幸はあの大学生とデートらしい。」


あの大学生って。


もしかして、民宿に泊まったチャラ男君ですか。


美幸が心配なんですけど。


「あの大学生は見た目より真面目らしいから、心配するなと言ってた。」


分かったけど、健人は部活もあるだろうし。


いいから後へ乗れと言われた。


健人と一緒に帰るのは何ヵ月ぶりだろう。


しっかり捕まれよ。


そんなに走らないで。


あのお屋敷に祐吾はいるのかな。


お屋敷の前に黒い高級車が停まっていた。


俺はもう二人の邪魔をするつもりはないからと、訳の分からない言葉を残して帰って行く。


どういう意味。


二人の邪魔って。


私と祐吾の邪魔をしないと言う事てますか。

お屋敷の前にたっていると、祐吾の父親が現れた。


怖いんですけど。


「祐吾はいないから、帰りなさい。」


「祐吾は東京へ帰ったのですか。」


「おまえには関係ない。」


そんなに睨んでも怖くなんかないんだから。


「祐吾は約束してくれたんです。この町を離れることはないといました。」


祐吾の父親がおまえは10年前も同じ事を言ったが、祐吾は離れて行ったじゃないか。

10年前に私がそう言った。


10年前の雨の日、私は祐吾を訪ねて来たと言うの。


分からない。


思い出せないよ。


「青木、娘さんを送ってあげなさい。」


いえ、結構ですとお屋敷を出た。


祐吾がいないと言う事は、東京へ帰ったのか。


分からないよ、分からない事だらけで、10年前の事も、今現在の事も。


私は祐吾の父親に聞き返す事も出来ず、その場から逃げる事しか出来なかった。






















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