気づかないままに
あなたの名を呼ぶ声は
「…んっ…」
「莉花」
涼やかな声。細く長いその綺麗な指のさきであたしの体を自由にもてあそぶ、優雅な王子。
「だ…め」
ゆっくりと軽く、でもしっかりと敏感なところだけをなぞられながら、わずかにあいた唇からは震える吐息が漏れる。いやらしい音をたててこすり続ける彼の表情は、あたしからはよく見えない。
けれど、きっと。
「あっ、やぁっ…」
それまで一定のペースを保っていた彼の指が、急にはやくなる。
「やめっ……んんっ、」
とまらない。あたしが達する直前、指は虚しくストップする。どうし…て?涙で濡れた目をぼやけた彼におくると、
「その顔、俺以外には禁止な」
「え…なんで…?」
よく分からない…そう思った瞬間、あごを持ちあげられ、強引に上を向かされる。
「…言えよ。俺のこと、欲しいんだろ?そんな顔してる」
「え」
あわてて両手で熱い顔を押さえる。そんなあたしを見て、ふっと彼が笑った。その顔がなんだかどうしようもなく愛おしいものを見ているみたいで、調子がくるう。
「莉花」
なんで、こんなにも。
「なに…どしたの」
愛してる?愛してない?あたしはあなたの、
ただのお遊びなのかな?
「ん…」
優しいキスは、しだいに熱く、深く。
「藍」
薄れていく意識のなかであなたの名を呼ぶあたしの小さな声は、あなたにも聞こえた?
あたし、こんなにも。
あなたのこと、大好きだから。あなたもその声であたしを呼びつづけてね。
…好き。
けれどあなたの顔は、見たくない。
きっとぞっとするくらい、冷たい冷たいものだろうから。