航空路
(前編)離陸
〈○○八便、○○行きをご利用のお客様に申しあげます。搭乗のご案内をいたします――〉
 空港に案内を知らせる、女性のアナウンスが鳴り響く。
 これを聞いた僕たちは、搭乗手続きを済ませると、担任の後について行くかたちで飛行機に乗りこんだ。案内をされたばかりなので、機内に人影はなく、僕たちが一番乗りのようだ。
「荷物を小さくするように」と担任から注意されていたのだが、思いのほか荷物が大きくなってしまった。なので、狭い通路を進んでいくだけでも悪戦苦闘である。
 しかし、飛行機の離陸には十分時間があるし、二階は僕たちの貸し切り状態だ。
 慌てず指定された自分の席をさがせるし、他の客の視線を気にする心配もない。
 出掛ける前の教室で「飛行機に乗った経験のある者は?」と、担任に質問されて、手をあげた生徒の数は十人ほどだった。
 初心者も同然である僕たちが搭乗に手間どって、他の客に迷惑をかけてはいけない。学校側は、そう判断して搭乗時間に余裕をもたせてくれたのだろう。
 さて、勘の鋭い人なら、既に僕が飛行機に乗った理由を悟っていることだろう。
 一生に一度の思い出だから。クラス全員が声を揃えて言う。
 そう、僕たちは今日、高校生活最大のイベント、修学旅行に行くのである。
 行き先は海外。海外旅行がはじめてという者も多く、みんな期待して大いに沸いた。
 冷静に傍観するつもりだった僕も、心の中で地元名物を食べてみたい……と考えて今日という日がくるのを心待ちにしていたのだ。
 で――恥ずかしいことだが現在の僕はというと、興奮で寝つけずに、そのまま朝を迎えてしまった。それが理由で睡魔に襲われ、意識が朦朧としている。
 それでも、
「班長、俺たちの席発見! ここだぜ!」
 隣の席に座る親友の伊藤秀喜に言われて、僕は意識を取り戻すことができた。
 しかし、「誰もなりたがらないからお前やって」と、半ば無理やり押しつけられた『班長』という肩書で呼ばれるのは何かこそばゆい。
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