航空路
「あのさー。立花……宮本、見なかった?」
申し訳なさそうに訊く鈴木の表情は不安そうだ。ただ、姿が見えないだけではこんなに心配しないだろう。姿を消してどれくらい経っているのだろうか。
「見てないけど。姿が見えないって……どっか探検でもしてるんじゃないか?」
僕の答えに鈴木が妙な反応を見せた。
視線が定まっていないでおよいでいる。まるで、違う場所に移されて驚く小動物のような反応だ。
「だって、トイレに行くって言ったきり、戻らないんだよ! 先生に言っても心配ない。じき戻ってくるって楽天的だし……田淵なんて全部捜したらしいんだけど、どこにも見当たらなかったって」
両肩をつかまれて鈴木に揺さぶられた。完全に鈴木は冷静さを失っていた。
「落ち着けって! 飛んで逃げられるわけじゃあるまいし……工藤が話していたけど、民間人はあちこち探検できないって言ってたぞ。空いている席で寝てるかもしれないし、下のドリンクバーにいるかもしれない……」
僕の答えに、鈴木が床に落としていた視線を上げた。
――俺と一緒に捜してくれるよな?
鈴木は声にしていないが、真剣なまなざしがそう告げていた。
「取り敢えず、田淵がどこを捜したのか訊きたいから席に戻ろうか。宮本が空席に座って寝ていたら、田淵だって見逃すさ」
鈴木を説得しながら席に戻った僕は、先程と少し違う様子に気づいた。
あれほど、僕たちに無闇にうろつくなと注意していた担任の姿が見えない。トイレだろうかと思ったが、僕たちはそこから戻ってきたのだ。トイレに行ったとは思えない。
「田淵の姿もないみたいだけど――」
周囲を見た鈴木が、僕の隣で不安そうな声をあげた。
確かに、行方不明になった宮本も戻っていなければ、田淵の姿もない。
ミイラ取りがミイラになる――と言うが、捜しに出た田淵も消えてしまったらしい。
「秀喜、宮本と田淵の姿、見なかったか? 姿が見えなくなって大分経つらしいんだけど」
僕が立ったまま訊くと、起きて一人神経衰弱をしていた秀喜は面倒臭そうに顔をあげた。
「俺がどうして、あいつのこと心配しなきゃいけないんだよ。心配して忠告したのに、鼻で笑うような奴だぜ。無視、無視!」
ハエを追い払うような動作で右手を振った秀喜は、一枚トランプを捲る。すると、開いていたトランプと、開いたトランプの数字が一致した。
それを見た鈴木が「おおっ」と声を上げる。鈴木の声に反応して、秀喜は顔をあげた。
そして、鈴木を見て息を吐くと、トランプを混ぜ集める。
「……ったく、捜しに行くんじゃないぞ。暇だからついて行ってやるだけだからな」
秀喜は立ち上がると、手元に置いたカバンから財布だけ抜き取って席を立った。時間が許せば、機内販売の飲み物や食べ物を買うつもりなのだろう。
とはいえ、「暇だからついて行ってやる」というのは、秀喜の本心ではなく口実だと僕は知っている。なんだかんだいっても、秀喜は仲間を大事にする良い奴なのだ。
申し訳なさそうに訊く鈴木の表情は不安そうだ。ただ、姿が見えないだけではこんなに心配しないだろう。姿を消してどれくらい経っているのだろうか。
「見てないけど。姿が見えないって……どっか探検でもしてるんじゃないか?」
僕の答えに鈴木が妙な反応を見せた。
視線が定まっていないでおよいでいる。まるで、違う場所に移されて驚く小動物のような反応だ。
「だって、トイレに行くって言ったきり、戻らないんだよ! 先生に言っても心配ない。じき戻ってくるって楽天的だし……田淵なんて全部捜したらしいんだけど、どこにも見当たらなかったって」
両肩をつかまれて鈴木に揺さぶられた。完全に鈴木は冷静さを失っていた。
「落ち着けって! 飛んで逃げられるわけじゃあるまいし……工藤が話していたけど、民間人はあちこち探検できないって言ってたぞ。空いている席で寝てるかもしれないし、下のドリンクバーにいるかもしれない……」
僕の答えに、鈴木が床に落としていた視線を上げた。
――俺と一緒に捜してくれるよな?
鈴木は声にしていないが、真剣なまなざしがそう告げていた。
「取り敢えず、田淵がどこを捜したのか訊きたいから席に戻ろうか。宮本が空席に座って寝ていたら、田淵だって見逃すさ」
鈴木を説得しながら席に戻った僕は、先程と少し違う様子に気づいた。
あれほど、僕たちに無闇にうろつくなと注意していた担任の姿が見えない。トイレだろうかと思ったが、僕たちはそこから戻ってきたのだ。トイレに行ったとは思えない。
「田淵の姿もないみたいだけど――」
周囲を見た鈴木が、僕の隣で不安そうな声をあげた。
確かに、行方不明になった宮本も戻っていなければ、田淵の姿もない。
ミイラ取りがミイラになる――と言うが、捜しに出た田淵も消えてしまったらしい。
「秀喜、宮本と田淵の姿、見なかったか? 姿が見えなくなって大分経つらしいんだけど」
僕が立ったまま訊くと、起きて一人神経衰弱をしていた秀喜は面倒臭そうに顔をあげた。
「俺がどうして、あいつのこと心配しなきゃいけないんだよ。心配して忠告したのに、鼻で笑うような奴だぜ。無視、無視!」
ハエを追い払うような動作で右手を振った秀喜は、一枚トランプを捲る。すると、開いていたトランプと、開いたトランプの数字が一致した。
それを見た鈴木が「おおっ」と声を上げる。鈴木の声に反応して、秀喜は顔をあげた。
そして、鈴木を見て息を吐くと、トランプを混ぜ集める。
「……ったく、捜しに行くんじゃないぞ。暇だからついて行ってやるだけだからな」
秀喜は立ち上がると、手元に置いたカバンから財布だけ抜き取って席を立った。時間が許せば、機内販売の飲み物や食べ物を買うつもりなのだろう。
とはいえ、「暇だからついて行ってやる」というのは、秀喜の本心ではなく口実だと僕は知っている。なんだかんだいっても、秀喜は仲間を大事にする良い奴なのだ。