契約結婚の終わらせかた



海に来るきっかけになったのは、心愛ちゃんのひと言だった。



「あ~つまんない! せっかくの夏休みなのに。まだどこにも遊びに行けてないんだよ」


友達は旅行だし、両親は共働きだし。と彼女はご機嫌ななめだった。


「空兄(そらにい)はバイトの鬼だしさ。つまんないい! どっか行きたい~!」


畳の上でバタバタする心愛ちゃんに、兄である空くんはひきつった笑顔を向ける。


「そ、そうだな! そろそろ夏本番だし。う……海なんていいなあ」


なぜか棒読み口調で話す空くんは、ちらちらとこちらを見てる。ん? なんだろう。 もしかすると、助け船が欲しいのかな。


高校生ともなると小学生の妹と2人きりで遊ぶのは恥ずかしいかもしれないな。微笑ましく思いながら、私も乗ることにした。


「なら、私も行こうかな?」

『え、ホント!?』


なぜか、心愛ちゃんと空くんが同時に立ち上がって綺麗にハモる。空くんが片手を挙げてガッツポーズを取るから、やっぱり大勢がいいのかなと思う。


「あと、おばあちゃんとか知り合いを誘うよ。せっかくの夏なんだし、みんなで楽しんだ方がいいよね?」


伊織さんがどんな反応をするか、と想像しただけで自然と笑いが浮かぶ。


だから、空くんが凍りついて固まってたり、心愛ちゃんの「あ~あ……砕け散ったね」って呟きは知らなかった。


その後は話を聞きつけた他の子どもや、伊織さんを行かせる条件に葛西さん一家も加わって。予想よりずいぶんと大勢になった。


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