契約結婚の終わらせかた







「うわぁ~キレイな海ですねぇ」


到着した駐車場から見える海を眺めながら、のんびりとした口調でおっしゃるお方は葛西さんの妻であるくるみさん。


背の高さは私とほぼ一緒だけど、線が細くて体の幅が倍違う……トホホ。


ピンク色の花柄マキシワンピースを着たくるみさんは、麦わら帽子を被り白いカーディガンを羽織ってる。何だかふわふわした空気に、更に甘さをプラスするのが……。


「何を言ってる、くるみ。君より美しいものなんてこの世に存在しないさ」

「あらぁ~良介(りょうすけ)さんたら。視力が落ちたんですか?」


愛しの妻の肩をグイッと抱き寄せながら、葛西さんは片手を大袈裟に広げる。


「いや、君以外は何も見えないだけさ、マイスイート。あ、ダメだよハニー。こんなところに貝殻が……君が足を取られて転んだら大変だ!」


いそいそと葛西さんが拾い上げたのは、桜貝程度の貝殻。彼の溺愛と過保護っぷりに、一緒の車に乗ってた美帆さんはげっそりと窶れてた。


「あんなの普段から見れば甘いよ。家だともっとすごいんだから」


ずいぶんと覚めた物言いは、葛西さん夫婦の一人娘である千尋(ちひろ)ちゃん。水色のワンピースを着た彼女は、慣れた様子でペットボトルのお茶を飲み込む。


……って言うか。確か千尋ちゃんってまだ六歳じゃなかったっけ?


「勝手に2人の世界を作って完結するから、実害を気にするなら放置しておけばいいよ」


……そんな完全に覚めた言い方を実の娘にされるとは。


葛西さん夫婦は普段から家で一体何をなさっているんですか!? 想像するだに恐ろしい気がしますよ。
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