契約結婚の終わらせかた
「碧さん……このプリンの作り方はどこで教わりました?」
「え……おばあちゃんに、ですけど?」
「……そう……そうだったの」
葵和子さんは一人で納得したようにジッとプリンを見詰める。一体なんだろう? と不思議に思ってると、彼女がぽつりとこぼした。
「……どうりで、懐かしい味がしました。静子さんの味……わたくしにとって、一番幸せな時代(とき)の象徴ですから」
そして、と彼女は躊躇いながら続ける。
「伊織にとっても……ね。伊織が7つの誕生日に一度だけ、わたくしが作ったプリン。静子さんのレシピを一度だけ作ったことがあるの。あの時……家族が唯一集まって人並みに伊織の誕生日をお祝いしたの。だから、彼はこれが忘れられなかったのね」
はらはら、と涙を流した葵和子さんは、ハンカチを取り出すとそっと目もとを押さえる。
「こんな風に、絶縁された息子にいつまでも関わろうとして気持ち悪いでしょう。でも……どうしても気がかりで。悪いとは思いましたが、定期的にあなた方のことを報せていただいてきたのです。直接会わないこと、生活を乱さないことを条件に。その方だって、伊織のことを心配してますから。わたくしと会うことは決して良しとしないでしょう」