契約結婚の終わらせかた
「なあんだ。結局うまくまとまったわけね」
「きゃあああ!」
思わず両手で伊織さんを突飛ばしてしまったのは、唐突に出てきた誰かさんのせいです!
ばっしゃん!と見事な水しぶきが舞って。かの人はガーデニング下の池を覗き込んだ。
「……お~い伊織、生きてる?もう10月なのによくやるね」
「うるさい! おまえのせいだろうが」
地を這うような伊織さんの声は、最高に不機嫌な時の証拠だ。
なのに、怒らせた当の本人は平然としてるし。
「……おまえ、コイツにけしかけただろう?」
「へ、何が?」
「とぼけるな! コイツにシオンを仕掛けただろう」
伊織さんの怒声で、そういえばそんな人に声をかけられたなと思い出す。
「あの……私は大丈夫でしたから。そんなに怒らないでください」
「そうだね~現在男装の麗人としてトップスターのシオンを歯牙にもかけないなら、碧ちゃんは本物だなあ」
にっこり笑う腹黒……もとい。葛西さんは、意味深な含み笑いをした。
「女ならシオンの凛々しさと美しさに多少なりともクラッとくるのが普通だと思ってたけど。よかったな、伊織。おっさんでも慕ってくれて」
「誰がおっさんだ!」
冷静だけど怒る伊織さんに、ニヒヒと葛西さんは笑う。
「ま、とりあえずは上手く纏まったなら、めでたしだね」
「あの……もしも私がクラッときたなら葛西さんはどうしたんですか?」
恐る恐る……怖いもの見たさで葛西さんに訊いてみれば。彼はニヤリと唇の端を上げて目を光らせた。
「うん、どうしたと思う?」
にこやかにおっしゃってましたけど……
葛西さんのその笑みが恐ろしすぎて、夢にも出てきて魘されたのは内緒です。