契約結婚の終わらせかた
「空く……」
「あんな男……碧を泣かすばっかで、守れもしない男はやめろよ! オレの方がずっと碧を見てるし守れる……ちゃんと碧を見るから!」
「……っ」
グイッ、と顔を引き寄せられて、え? と目を瞬く。空くんの顔が近づいた――と思った刹那。
ガツン、と鈍い音がして空くんの顔が歪む。
目まぐるしい展開に頭がついていかない。何が起きたのか解らずに呆然としていると、空くんの体が崩れ落ちた。
「空くん!?」
慌てて彼を見下ろすと、空くんは口元を拳で拭い目の前を睨み付ける。その先にいる人を見た瞬間、心臓が跳ねた。
「今ごろ、来やがって! あんたが約束を守らなかったから碧が倒れたんだろ!!」
「……」
肩で息をした伊織さんは髪が乱れ額から汗を流してた。必死の形相の中に見えたものは――何だろう?
「守れないなら! 碧のダンナなんて止めちまえ!! 好き勝手に振る舞うアンタに、オレを殴る資格があんのかよ!」
ガツッと鈍い音が響く。空くんが伊織さんを殴った音だった。彼は避けずにわざと拳を受けていた。
そして、ぽつりと呟く。
「それでも……俺はこいつの夫だ」
伊織さんは空くんと私をまっすぐに見る。そして、はっきりと告げた。
「碧は、俺の妻だ!おまえに渡すつもりはない」