契約結婚の終わらせかた
(どうせ同じ時間を過ごすなら、味気ない無意味な時間より、少しでも楽しいいい思い出になった方がいいもんね)
うん、と私は一人頷くと、思い切って振り返り、伊織さんに笑顔を向けた。
「さ、伊織さん行きましょう! いろんな催し物がありますけど、時間がないんですよね。なら、ちゃっちゃっと回りましょ」
本当に、すべての勇気を振り絞る必要があった。だって……伊織さんの手を自分から掴んで引くなんて。後から思い返しても無謀だったと身震いするほど。
だけど、その時の私はとにかく伊織さんに少しでも楽しんで欲しくて夢中で。わざとらしくても明るい笑顔と声を出して、彼を案内した。
「ほらほら、置いてっちゃいますよ」
「そんなに引っ張るな! 逃げはしない」
勢いに飲まれたのか、伊織さんは不機嫌そうな声を出したけど。繋がれた手をしばらく振りほどくこともなかった。
ま、途中でほどかれちゃいましたけどね。
「あれはなんだ?」
「りんごあめですよ。小さな姫りんごをあめでコーティングした食べ物です」
「なんであんなに真っ赤なんだ。不自然で身体に悪いだろう」
「……それを言っちゃダメですよ。ああいうのは雰囲気が大切なんです」
「風船がたくさん流れてるのに何の意味がある?」
「あれは水風船を釣るゲームなんです」
「あんな柔い紙でか? 不可能じゃないか」
「それが腕の見せどころなんですよ。時間があれば実演しますけど今日は無理ですね」
……Etc.子どもみたいな素朴な疑問に律儀に答えていった。