いきなりプロポーズ!?
係員神山さんの顔は一気に青ざめた。
「か、確認してきます! とりあえず何か飲みますか?」
神山さんは近くにいたホテルスタッフにコーヒーをふたつ注文すると、小走りにフロントへ向かった。そしてスマホを取り出し、どこかに電話をしながらスタッフとやり取りしている。飛行機で隣り合わせたのもチャーターバスの中で神山さんが変な顔をしたのも納得した。でもまさか、そんな手違いがあるなんて、まさかまさかそれが自分の身に降りかかるなんて……。
奴はふてくされてドスンとソファに腰を下ろした。私も向かいに座った。ローテーブルの向こうででーんとふんぞり返る赤帽男は届いたコーヒーをズルズルと下品にすすった。心を落ち着かせようと私もコーヒーをすすった。アメリカだけに味は薄く本当にアメリカンだった。
しばらくして神山さんが戻ってきた。相変わらず顔は青白いままだ。そしてテーブルの脇に立つと深く頭を下げた。
「新條様、真田様、このたびは誠にもうしわけございません。キャンセルされた前のお客様情報のまま更新がなされずハネムーンの扱いのままでした」
「いや。分かればそれで。間違いはだれにでもあるし」
赤帽男、少しはまともなことを言うではないか、と少しだけ見直したのもつかの間、神山さんが爆弾ともいえる発言をした。
「それが。あいにく満室でして振り替えのお部屋がございません」
「へ?」
「え!」
「申し上げにくいのですが、このままおふたりでスーペリアルツインにご滞在ねがえませんでしょうか」
ぶっ。衝撃の提案に私は口に含んでいたアメリカンを吹き出した。すぐにハンカチを取り出して口元やコートを拭く。
「汚ねえよ」
「しょうがないでしょ! びっくりしたんだもん」
「なんでこんな奴と同室なんだよ」
「それは私のセリフですっ。神山さんでしたっけ、添乗員さんもホテルに滞在するんですよね? 神山さんの部屋にこの男を引き取ってもらえませんか?」
「いえ、あいにく現地係員の僕は近くの賃貸に住んでまして」
「お前、俺を追い出して自分だけスイートかよ。お前こそ野宿しろよ」
「ええ? こんなか弱いレディに野宿なんてよく言えたわね!」
横にいた神山さんが夜は冷え込んで氷点下40度になることもあるから野宿は、とかなんとか言ってるけどそんなの突っ込んでる暇はない。私の敵は目の前にいるデリカシー氷点下の男。