いきなりプロポーズ!?

「まあまあ、おふたりとも! 喧嘩するのは仲がよい証拠ですしね」


 神山さんは取りあう様子もなく、ニタニタを笑って私たちを見る。


「だから違います! 俺たち、本当に赤の他人ですよ!」
「そうですっ。私だってこんなデリカシーのない男、願い下げですからっ!!」
「何だよ、それ!」
「普通、初対面の女の子に可愛くないとか失恋したモテナイ女とか言ったりする?」
「俺がいつそんなこと言ったかよ」
「言ったわよ! 離陸したあとの機内で!! つい半日前のことも覚えてないの? もう痴呆症?」
「てめえ……」


 赤帽男が私ににじり寄り、上からギロリと睨みつける。暴力沙汰になったら大変だと思ったのか神山さんが私たちの間に入った。そして神山さんは手にしていたファイルから書類を取り出して確認した。


「僕のいただいた資料にはお二人は新婚旅行でこのパックツアーを申し込まれたことになっています」
「はあ?」
「ええ?」


 神山さんは続ける。


「なので飛行機の座席もホテルの手配もすべて一緒にしたんですけど……新婚さんじゃないんですね」
「何かの手違いだろ、それ」
「そうよ。私、ひとりで申し込んで満席だったからキャンセル待ちして」
「あ、俺も。キャンセルが出たっていうから慌ててパスポート用意して準備して。あ」
「ということは、ですね」


 3人で顔を見合わせる。思いついたことはきっと同じ。新婚旅行がキャンセルされて、恐らくはそのまま修正がなされなかった、ということ……。



< 9 / 144 >

この作品をシェア

pagetop