いきなりプロポーズ!?
私はからかい半分で聞いた。でも達哉は黙り込んでしまった。
「何のためにやってたんだろうな……」
そう呟いてため息をついた。前髪をかきあげたあと両手を頭の後ろで組み、小さな背もたれに体を預けてそのまま背を反らせた。天井をぼんやりと見つめ考えにふけっている。普段ふざけておちゃらけてる男がこうもしんみりすると焦る。からかった罪悪感が私を襲う。何を思い出してるんだろう。元カノのこと? 元カノを捨てて渡英したことを悔やんでるとか?
「ねえ、嘘ついてだじゃない。配送業だなんて」
「ボール運んでんだよ、自分の陣地から敵陣にボールを運ぶんだし。ある意味配送業だろ?」
「そんな屁理屈。なら最初から言えばいいじゃない。イギリスのチームのプロ選手だって」
「そうだけど……今は違う」
「え?」
達哉はちらりと目だけを私のほうに向けた。すぐに視線を逸らして前を見ると、後ろに組んでいた手をそのまま前に回して背中を丸めて伸びをする。聞かれたことを正直に話したくないのか、もったいつける風に。そしてまた流し目で私を見る。
「聞きたい?」
「聞きたい」
と返事はしたものの、正直なところ聞くのも怖かった。でも知りたかった、達哉のこと。達哉は左腕の肘をカウンターに突き、手のひらに顎を乗せる。そして遠くを見るように正面のキッチンの棚を見ていた。
「故障して解雇になったんだ。正確にいえば契約を更新してもらえなかった」
「でも鈴木さんは日本に戻るって」
「ああ。春からJ1のチームに復帰することになってる。高校時代の恩師のツテで。まあ、けがをきちんと直したらって条件付きだけど。でも正直自信はないんだ」
「そんなにひどいの?」
「膝の靭帯をやられた。これ自体はスポーツ選手、とくにサッカーやってればよくあること。でも復帰までに半年はかかるんだ。その間練習もできないし試合にも出させてもらえないしな。正直、もう、サッカーはやめようかと考えてる」