いきなりプロポーズ!?

 私はプレートに盛ったパンケーキを切り分けた。シロップはしみ込んで柔らかくなっている。口に入れるとじゅわりと甘い液体が広がって、これはこれで美味だ。スープの塩気でまた箸が、いや、フォークが進む。うん、美味しい。パクパク食べていると横から視線を感じてそっちを見やる。達哉は頬杖をついたまま私を見ていて、目が合うとにやりと笑った。いつの間にか見つめらていて恥ずかしくなり、私はプレートを見つめた。


「サ、サッカーやめたらどうすんの?」
「適当に仕事探す。日本は景気も戻ってきてるだろ、職を選ばなければなんでもいけるさ」
「無駄に体力はありそうだよね、配送業でも介護でも工事現場でもなんでもいけそう」
「まあな。でも舞に怒られそうだな……」


 私は顔をプレートに向けたまま目だけを横にして気付かれないように達哉を見た。達哉は頬杖をついたまま、前を向いていた。


「ねえ、舞さんって先輩だったんだよね? まさか舞さんもサッカー選手? なでしこジャパンとか」
「いや。俺がイギリスに渡る前に所属してたチームの事務員」
「ふうん」
「社会保険の手続きとか手当の申請とか、入社当時から結構接点多かったから。舞が泣かされてるのを何度も見てた。やっと元カレと別れて俺がプロポーズしたとき、ちょうどコンシェルジュから打診があってさ。いい機会だから一緒にイギリスに行こうって言った。イギリスに渡れば元カレを見ることもなくなるし、思い出さなくなるだろ? でも勇気がないって。あのとき日本に残ってサッカーをつづける選択もあったのに、俺は舞を置いてイギリスに渡ってプレーして。結果、ケガして日本に帰ってくるなんて、負け犬だろ。なんの意味があったんだよって感じ?」


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