いきなりプロポーズ!?
 神山さんはちょっとおどおどしてるふうだった。手配違いを申し訳なく思ってるから、というだけではないようだ。


「その……新條様とはずっとご一緒のようですが」
「あ、うん。あいつの提案で、他人同士が同室だとヘンに勘繰られるから、旅行中は恋人のフリしてるだけ」
「そうでしたか。じゃあ新條様とはなにも?」
「なにもありません! 変な想像しました?」
「してません、してません! ところで真田様はアルコールは得意ですか?」
「ええ、まあ。たしなむ程度には」
「実はお詫びと言っては何ですが……」


 神山さんはそう肩を丸めながら言うと、脇に抱えていたファイルから白っぽい封筒を引き抜いた。それを両手で私に差し出す。封筒には筆記体のローマ字でバーなんとかと書かれている。


「バー?」
「しーっ」


 神山さんは人差し指を立てて、自分の口元にあてた。そして後ろを振り返る。達哉はキー待ちの列に並んでいた。


「これ、うちの会社が経営してる店なんですが、会員制で一般の方は入れないんですよ。バーといっても基本的にはフレンチで、パティシエとしても腕のあるシェフが監修してるんです。お通しにシャンパンとマカロンが出てくるんですけど。お店も凝った作りで、バーという名の通り、カウンターで食事をとるんですが、それが桜の一枚板で8メートルもあるんです。よほどの大木でないとつぎはぎになりますから立派ですよ」


 シャンパンにマカロン、桜の一枚板。私は封筒を再び見た。住所は日本のようだ。再び視線を神山さんに戻す。


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