いきなりプロポーズ!?
空港からバスに揺られて到着したホテル、ロビーで添乗員の神山さんがそれぞれのグループに部屋のカギを渡す。部屋はツインだから4名の女性グループにはカギがふたつ、年配の夫婦にはひとつ、と順々に名前を呼ばれてカギを受け取っていた。受け取った人たちからロビー奥にあるエレベーターに消えていく。私はそれをぼんやりと眺めていた。きっと申し込み順で、私はキャンセル待ちという最後尾だから遅いんだろうと思っていた。残り10人5人と減っていく。赤帽男もまだ残っていた。次に女性3人グループが呼ばれ、エクストラベッドを入れて一部屋だと告げられカギを渡されると、キャリーケースを転がして楽しげにエレベーターに向かっていった。とうとう残りは2人になった。私と赤帽男だ。ちらちと見やると奴も私を見ていた。私は、フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。こいつもキャンセル組か。
「新條さん、お待たせしました」
先に呼ばれたのは赤帽男だった。負けた気がしてどことなく悔しい。私はまた鼻を鳴らした。ふん。
「お部屋がツインなんですが、たまたまスーペリアルツインと言いまして、まあ簡単にいえば準スイートです」
「えっ、そんな良い部屋を?」
「こういうツアーの場合、ホテルから空いてる部屋を指定の部屋数だけもらって、振り分けは旅行会社が行うんです。新條さんはラッキーでしたね」
添乗員の神山さんはにやにやしながら言った。何をにやついてるのか、添乗員っていうのはこういうちゃらい人種だと思うことにした。
スイートをひとり占め、うらやましい。ツアーなら値段も他と一緒じゃないか。もちろん私とも同じ金額。もし私に割り当てられた部屋が倉庫みたいなジメジメした狭いところだったら、神山さんに噛みついてしまうかもしれない。はあ。
「いや……でも」
「せっかくの新婚旅行なんですから、仲良くなさってくださいね」
新婚? その単語に私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。あまりの勢いに脳からはみ出してボンボンと外へ飛び出していく。だって赤帽男はピンで来てたはず。思わずあたりを見回したが、女の子なんていなかった。きょろきょろとしていると神山さんがクスクスと笑った。
「とぼけるのが上手ですね、真田さん。新婚早々の喧嘩はよくありますが、早く仲直りしてくださいね」
「は?」
「はあああ?????」
私は声をあげるが早いか、隣にいた赤帽男は私よりももっと大きな声を上げ、大きな目をさらにまあるくしていた。
「新婚って。おれたち新婚じゃないですよ」
「またまた〜」
「名字も違いますし!」
「成田離婚を恐れて帰国後に籍を入れる予定ですよね? 最近はそういうカップルも結構おられますよ。挙式後すぐにハネムーンだとお役所にも寄りにくいですし」
「いや、だから、こんな女と恋人でも夫婦でもないし!」
「ちょっと! 何よ、こんな女って!」
神山さんが私たちふたりの会話に思わず口を挟む。
「新條さん、お待たせしました」
先に呼ばれたのは赤帽男だった。負けた気がしてどことなく悔しい。私はまた鼻を鳴らした。ふん。
「お部屋がツインなんですが、たまたまスーペリアルツインと言いまして、まあ簡単にいえば準スイートです」
「えっ、そんな良い部屋を?」
「こういうツアーの場合、ホテルから空いてる部屋を指定の部屋数だけもらって、振り分けは旅行会社が行うんです。新條さんはラッキーでしたね」
添乗員の神山さんはにやにやしながら言った。何をにやついてるのか、添乗員っていうのはこういうちゃらい人種だと思うことにした。
スイートをひとり占め、うらやましい。ツアーなら値段も他と一緒じゃないか。もちろん私とも同じ金額。もし私に割り当てられた部屋が倉庫みたいなジメジメした狭いところだったら、神山さんに噛みついてしまうかもしれない。はあ。
「いや……でも」
「せっかくの新婚旅行なんですから、仲良くなさってくださいね」
新婚? その単語に私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。あまりの勢いに脳からはみ出してボンボンと外へ飛び出していく。だって赤帽男はピンで来てたはず。思わずあたりを見回したが、女の子なんていなかった。きょろきょろとしていると神山さんがクスクスと笑った。
「とぼけるのが上手ですね、真田さん。新婚早々の喧嘩はよくありますが、早く仲直りしてくださいね」
「は?」
「はあああ?????」
私は声をあげるが早いか、隣にいた赤帽男は私よりももっと大きな声を上げ、大きな目をさらにまあるくしていた。
「新婚って。おれたち新婚じゃないですよ」
「またまた〜」
「名字も違いますし!」
「成田離婚を恐れて帰国後に籍を入れる予定ですよね? 最近はそういうカップルも結構おられますよ。挙式後すぐにハネムーンだとお役所にも寄りにくいですし」
「いや、だから、こんな女と恋人でも夫婦でもないし!」
「ちょっと! 何よ、こんな女って!」
神山さんが私たちふたりの会話に思わず口を挟む。