いきなりプロポーズ!?
 そんな私を見て夫人はクスクスと笑った。


「あの……」
「やっぱりそうだったのね」
「ええ」
「私の勘は当たったわね」
「はい。……って、勘? ええ? ええーっ!」
「レストランで話してるの聞こえちゃったの。ごめんなさいね、盗み聞きするつもりはなかったんだけど、雰囲気も言葉遣いも恋人という感じじゃなかったから」
「実は新婚カップルがキャンセルして出来た穴に私と達哉がたまたま入って、でも情報がちゃんとこっちにまで行き渡ってなくて、新婚カップル扱いにされてしまって……満室で部屋もなくて……」
「そうだったの」
「でも恋人ってことにしておかないと、変な目で見られそうだから演技を……」


 カマを掛けられた。夫人はただのヤマ勘で言っただけだった。確かに達哉と話してるときにご夫妻は近くにいたと思う。でもそれにしても鋭い推測だ。


「でも、そんなわけですから、あの、達哉とはその、なんでもなくて、真っ昼間からあんなことやこんなことは神に誓っていっさいやってません!」
「あんなことやこんなこと?」
「いやだから、その! 激しいとかテクニシャンだとか! 白昼堂々とか! あ……」


 墓穴をさらに掘った。さすが私だ。もうこの際、墓穴でいい、穴があったら入りたい。顔が熱くてしょうがない。そんな私を見て夫人は優しく笑う。


「好きなの? 彼のこと」
「いえ、けけけ決して」
「隠さないの。愛弓さん、そうなんでしょ?」


 この人なら多分誰にも話さないだろう。誰かに聞いてもらいたかった私は素直に認めることにした。


「ええ……まあ」
「なら付き合えばいいじゃない。既成事実もあるでしょ」


 ぶはっ。私はまた吹き出してハンカチで口元を拭った。


「だから激しい既成事実なんて」
「激しかったじゃない、昨夜」
「昨夜?」


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