どこまでもパラレル
智子が傍らに立った車は、小排気量ながらスポーツモデルの高級外車だった。
なんだ。いい暮らししてるんじゃないか。
「がっぽり貰った慰謝料で買ったの。むしゃくしゃした時に飛ばすとスカッとするのよ」
相変わらず嘘の下手な女だ。
結婚も離婚もしていないのじゃなかったのか。
助手席のドアノブに伸ばしかけた手を元に戻した。
俺には帰るところがある。
妻の顔が脳裏に浮かぶ。
人をひとり幸せにするというのは大変なことだ。
他の幸薄そうな女まで幸せにすることなんて不可能だ。
俺が一緒に苦労しながら年老いていくことを選んだのは、智子の知らない時期に出会った今の妻だ。
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