ある王国の物語。『白銀の騎士と王女 』
番外編1
「止めっ!!! 皆、集まれ!! 話がある!!」

ボルタージュ国最強と言われている、若き騎士団長バルデンの野太い声が闘技場に響き渡る。
サーベルを片手に止まる騎士見習いの少年、青年達。


ボルタージュ騎士になるためには、十歳から学ぶのが基本であった。
門扉は広く、基本誰でも入団できる。生活に必要なモノは全て支給される為、入団する場合は必ず身一つで来る。よって、貴族や一般人などは関係なく実力主義。
騎士は国の宝とされているので、衣食住にかかる費用は全額、国が持つ。騎士に入団した者は家元から離され、全ての生活を騎士仲間で行うよう義務付けられている。
無論、ローテーションでひと月に一度程度は休日が二、三日貰えるので、自宅に帰れるもよし、恋人がいる者はいちゃついてもよし、という事だ。

騎士見習いは、掃除、洗濯、料理、全てを行う。
朝早く起き基礎の身体作り、昼は勉学、それが終われば実践演習という日々、耐えられなく潰れていく者も多く。だからこそ、ボルタージュ騎士の称号を手に出来たものは、皆から一目を置かれ、賞賛があるのだ。


そんな騎士団に。
自らの力を信じ、身分を隠し騎士としての精神と腕を磨く為……ボルタージュ国の王太子であるレオンも入団していた。


「バルデン団長が闘技場にこられるなんて、珍しいな?」

「やっぱり、レオンもそう思うよな? 今頃、なんだろう?? うん? 誰か一緒にいるぜ??」

先ほどまで手合わせをしていた騎士仲間のパトリック、が珍しいものを見たように、レオンに目を向ける。
そして二人はバルデン団長の元に走り、一緒にいる美しくも儚い天使を穴があくほど見つめる。

「うっわぁ〜〜凄い……」
「美人な方ですね」

パトリックはボケっとした顔で、近くにいてたフローレンスは嫌味ではなく賞賛。
レオンも呆然とバルデン団長の後ろを歩く少年? 青年? を見つめる。

レオンは今、付き合っているエリザベスのように男装して入団してきたのか? と思った。

美しいと評判のエリザベスより美しいし、王宮で美しい人を常日頃見てきた王太子であるレオンが、正面切って「今まで見てきた人間で一番美しい人」と言える容姿だったからだ。
だから誰よりもまず、その美しい人間の胸元を見て「胸はないな」と確認し、股間も見る。顔や雰囲気は女性だと思ったが…… 股間はしっかり盛り上がりを見せていて「うっ。こいつ結構デカイ」と何故か若干男として負けたような気になり、勝手に落ち込む。


レオンが悶々としている間に、全ての騎士見習いがバルデン団長の側に集まった。
たった今、指揮をとっていた副団長のキメルダも少し驚いている。それを盗み見たレオンは少なからず、動揺する。

(「バルデン団長の片腕のキメルダ副団長も、知らないなんて、なんだコイツ。何か裏があるのか??」)
レオンの思考が騎士から王太子に戻る。


「皆、集まったな。今日から騎士団に入団する、アレンだ。歳は十八。この年齢からの入団は異例だが、本人の立っての希望だ。ほら、挨拶をしろ」

バルデンに肩を軽く押され、アレンは前に出る。

肩を押された際に、アレンの極上の銀糸の髪が空気を含み舞い上がる。
太陽の下では、溶けてなくなるのではないか? と、心配になるほどの雪のように真っ白い肌は、白いだけでなく陶器のように滑らかだ。
こちらを見据えてくる瞳の色は、アメジストの宝石だ。あまり宝石や美に興味がない騎士見習いの者達も、アレンのこの世とは思えない儚さたっぷりの美貌に魅入られて、固まる。
文句無しに美しい造作の顔面に、品良く形作られている唇からは、男にしてはすこし高めの甘い声が、、、。


「はじめまして、アレンと申します。よろしくお願いします」

「「「「「……えっと……」」」」」

なんの感情の欠片もない声と表情。しーーーん。と静まり返る闘技場には、場違いな鳥の鳴き声が微かに聞こえていた。

アレンは最早それ以上話すつもりがないのか、黙っている。
バルデンも、アレンの趣味や野望、騎士への熱い気持ちを聞くつもりだったので、あまりにも短い自己紹介に ポッカーンだった。

バルデンよりも早くに覚醒した、キメルダは「団長」とバルデンを呼び、現実に引き戻す。

「あっいや、すまん。まぁ、その、仲良くやってくれ。今日はこれで解散だ。それと……アレンに騎士見習いの生活を教える者をだな、、、」

とバルデンが口を開くと、騎士見習いの青年達はキラキラとした瞳で、バルデンを見てくる。

「うっっっ」

闘技場にいる騎士見習いは誰も口には出していないが、目でモノを言う。
僕が!! 私が!! 俺が!! と……。
例え男であっても、これだけの美貌はなかなかお目にかかれない。ほぼ女なしの生活な為、色々たまっているのも加わり、異様な空気になっていた。
バルデンもキメルダもこれには、頭を、抱えていた時、今まで黙っていたアレンが口を開く。


「バルデン団長、もしまだ教えを請う相手が決まっていないなら、あそこの金髪にグリーンの瞳の彼がいいです。年の頃も同じだと思いますし、駄目でしょうか?」

今まで何も映さなかったアレンのアメジストの瞳に、はっきりとした輝きが入り、レオンを見つめている。

名指しされたレオンは驚愕に瞳を開き、バルデンとキメルダは、息を飲む。
騎士見習いの青年達はレオンの身分は知らない。騎士団でそれを知っているのは、団長であるバルデンと副団長のキメルダだけだった。
何故アレンがレオンを選んだのか……。知っていて選んだのは分かる。でもそれは何故かが分からないからこそ、王太子であるレオンに近づけてよいものか迷う。

それは、アレンの父はこの国の宰相だからだ。

どうするか、迷う二人を尻目にレオンはゆっくりと前に出る。



「俺はレオンという。アレンと年齢も同じ十八だ。何でも聞いてくれ。よろしく」

レオンは優しい笑みを浮かべながら、陽に焼けた右手を差し出す。
レオンの肩までしかない身長で、儚げさが漂うアレン。レオンの差し出された右手をゆっくりと握り返す。
儚く消えそうな見た目と相反し、合わさった手の大きさに、その腕力に、驚愕する。

驚き、アレンの瞳に視線を合わせると、、、レオンを見据える瞳は、先ほどまでの感情のない瞳ではなかった。
アメジストの瞳は、限りなく深く、底がみえない欲望を覗かせていた。


この二人が後に、長きに渡りボルタージュ国全土に、名が語り継がれる賢王、レオン・ボルタージュと。
ボルタージュ最高の騎士で、白銀の騎士という異名を持つ、伝説の騎士アレン・メルタージュ、二人の出会いだった。
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