彼に惚れてはいけません
食器を持って立ち上がった吉野さんは、手際良く私のお皿も片付けてくれた。
「ごちそうさまです。私、洗うよ」
「いや、断る。お前、割りそう」
と笑った吉野さんは、手際良く洗い物をする。
深読みかもしれない。
でも、私には吉野さんが私を特別な気持ちで招待してくれたようにしか思えないんだ。
違うのかな。
誰でも呼ぶのかな。
「コーヒーでいい?」
いつも自然体で、いつも冷静で、それなのに相手のこともちゃんと気遣ってくれて。
この人を他の誰にも渡したくないと思う。
弥生さんにも渡したくない。
「ソファでゆっくりしてていいよ。昼寝してもいいよ」
「しないよ。襲われちゃうもん」
冗談のつもりで言ったのに、吉野さんは真顔で私を見つめてきた。
その沈黙に耐え切れず、私は
「冗談に決まってるでしょ」と目をそらす。
コーヒーをいれているはずの吉野さんが、一歩ずつこっちに歩いてくる気配を感じる。
私はベランダに視線を移し、空を見たりして気付かないフリをしていた。