彼に惚れてはいけません

彫りの深さは思った通り。
お気に入りは、垂れ目ならではの目じりのしわ。

「職場近いし、きっとまた会うだろう。じゃあ」

と立ち上がろうとする海老グラント様を見て、はっと思い出す。

一番大事なこと。

「あの、これ!これを渡したくて!カフェで朝、落としてたんです!」

私は手に握り締めていたボールペンをようやく返すことができた。

「ありがとう!拾ってくれてたの?わざわざありがとう!普通ならボールペンなんて見て見ぬフリをする世の中だけどな」

「私も最初はそう思ったんですけど、よく見たらお名前が入っていたので、もしかして大事な人からの贈り物とかかもしれないし、これは返さなきゃって思ったんです」

娘さんがいるのかどうか、知りたいような知りたくないような。
って、どうして息子じゃなく娘って思い込んでいるんだろう、私。

左手の薬指には指輪はなかった。

でも、指輪をしていたであろう跡が見える気がした。

「これね、大事な娘からの父の日のプレゼントだったんだ。だから、宝物。本当にありがとう!!お礼に、ケーキでもおごろうか?」

「いえいえいえいえいえ、いいです!!」

ショックが隠し切れなかった。覚悟していたのに、娘さんがいた。

私は、まだ2回しか会ったことのない人に、恋をしてしまったらしい。

未来のない悲しい恋だ。

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