彼に惚れてはいけません
「これ、何ですか?」
私は、メニューの最後のページに書かれている、“箱庭の時間 プライスレス”というのを指差した。
「吉野さんから聞いてない?これはね、箱庭療法っていう心理テストのようなものなんだけど、日々のストレスや自分の悩みや自分でも気付かない自分の心の声が聞こえたりするのよ」
箱庭療法??
初耳だった。
療法?
何、何? 病院なの?
「まぁ、難しいことはいいでしょう。実際にやってみますか?」
マスターは優しくそう言い、小さな箱を奥さんに渡した。
時計を見ると、7時を少し過ぎていた。
他にお客さんはいなかったけど、ボックス席には予約のプレートが置かれているのが見えたので、そこそこお客さんは来るんだろう。
「吉野さんはね、疲れた時にここに来るの。生きるってことはストレスをどう乗り越えるかっていうことでもあると思うの」
奥さんは、話しながら私のテーブルに透明の箱を置き、また別の箱には小さな人形や家、木、動物、飾りがたくさん入っていた。
透明の箱の中にはサラサラの砂が敷き詰められている。