彼に惚れてはいけません

「気にしないで、サラダ食べてね」

準備をしながら奥さんはそう言ってくれて、私はまだ食べていなかった半熟卵をパクっと口へと運んだ。

「美味しい~!絶妙な柔らかさですね」

「そうかしら?嬉しい!吉野さんもその卵が大好きなのよ」

吉野さんも同じものが好き。

そういう共通点って、相手が好きな人である場合、運命的だと感じてしまう。

「ゆっくりしてくれていいですよ。もし、お時間あればこの箱の中に、あなたの好きなようにこのフィギュアを並べて、あなたの世界を作ってみて」

「何を置いてもいいんですか?」

かわいい家や、人形を見て、幼い頃母と遊んだおままごとを思い出して、キュンとした。

私は一人っ子でそれを寂しく思わないように、と母がいつも遊んでくれていた。

私としては、母を独り占めできてラッキーくらいにしか思っていなかったけど、母は姉妹を作ってあげられなかったことを謝ってくれたこともあった。

「私は、心理カウンセラーの仕事をしていて、希望があればこうして箱庭でゆっくり遊んでもらうんです。そこに何かのアドバイスが欲しい人もいれば、ただ箱庭で遊びたいだけの人もいます」

「見守っててくれるんですか?」

ひとりで遊びたい欲求が出てしまうくらいに、魅力的なフィギュア達だった。

「いちおう、ここで見ていますが、いないものと思ってくれてかまいません」

砂の上に小さなピンクの家を置いてみた。

その瞬間、心が自由になれた気がした。

ひとりで家の中で遊んでいるように、誰の目も気にならなくて、心が躍り出す。

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