御曹司さまの言いなりなんてっ!

「遠山、座れ」

「……はい」


 胸の中に怒りの嵐が渦巻いてはいるものの、その暴風雨を専務に直接ぶつけるわけにはいかない。

 部長に言われた通り素直に席に着きながら、私はこっそり深呼吸を繰り返して気を落ち着かせた。

 専務はこの場に漂う微妙な空気を気にする様子もなく、勝手に話を進める。


「それで部長、僕が以前に提案した湖畔の施設はどうなった?」


 その言葉を聞いた皆が、一斉に手元の資料に目をやる。

 実は村には、湖があった。

 そんなに大きくは無いけれど、緑に囲まれた雰囲気の良い湖で、資料の写真を見た限りでは水も綺麗に澄んでいる。

 専務はそこに宿泊施設を建てて、プロジェクトの目玉にするべきだと主張していた。


「その件でしたら、前々回の報告書に記載しております。湖のそばの古民家を再生中で作業は順調です」

「ああ、それ、見たけどね。ダメだよあれ」

「……は?」

「小汚い古民家の再利用なんてみみっちいことしてないで、新しい施設をつくるんだよ」


 皆が書類から顔を上げて、専務の得意気な顔を見た。


「だって貧乏くさい宿になんか、今どき誰も金を払って泊まろうなんて考えないだろう?」

「ですがあの古民家は、空襲で焼け残った貴重な建築物です。それを利用することこそ、地域再生の象徴となり得るはずです」

「村の事情なんて、よその者にはどうでもいいことだよ。客はね、快適さを求めるんだ」

< 110 / 254 >

この作品をシェア

pagetop