御曹司さまの言いなりなんてっ!

 …………え?


 予想外の発言が会長の口から飛び出して、私は戸惑ってしまった。

 三ツ杉村? 会長の生まれ故郷の、プロジェクトの地に私と部長を連れて行くって?


「それはつまり、視察に行きたいと仰っているのですか?」


 いち早く状況を読んだ部長の言葉に、会長は満足そうに何度も頷いた。


「うん、そういうことだよ」

「ですがお祖父様。身体に負担がかかるので視察は辞退する、とのお話でしたが?」

「成実ちゃんと一緒に旅行ができるなら、老骨にムチ打ってでも行くとも! ねえ成実ちゃん!」


 そう言って会長は、また私の手の甲にチュッとキスをする。

 ビクッと両肩を強張らせながらも、なんとか悲鳴をあげるのだけは踏みとどまった。


「やっぱり直に現場を見ないことにはねえ。いくら机の上で議論をしても決まらないさ。成実ちゃん、三ツ杉村にはまだ行ったことがないんだろう?」

「は、はい」

「おや? そういえば直一郎も、まだ三ツ杉村へ足を運んだことがないのじゃなかったかね?」

「え? あ……」


 急に話の矛先を向けられた専務が、バツの悪そうな顔になった。


「あの、色々と仕事が詰まって、予定がつかなかったものですから」

「私も経験上、お前が忙しいのはよく分かる。でもできることなら可愛い孫ふたりと、故郷を訪れたいんだよ」

「はあ……」

「年寄りの最後の我がままと思って、叶えてくれないかね? 直一郎」

「承知しました。なんとか都合をつけます」

「おお、本当かね!? それは嬉しいねえ!」
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