御曹司さまの言いなりなんてっ!
ホクホクした温かい笑顔を見ながら、私は会長の思惑が読めたような気がした。
会長は、専務がムチャな要求を部長に突き付けようとしているのを、事前に察知していたんじゃなかろうか?
だからこの視察の話を持ち出したんだ。
都会生まれで都会育ちの生粋セレブな専務には、ド田舎の光景なんて理解の外だろう。
『となりのト◯ロ』を地でいくような長閑な場所に、御殿のような施設がデーンと建ったところでギャグにしかならない。
それを専務に肌で理解させるために、会長は視察を提案したんじゃないかしら。
老いた体にムチ打って会長自らお出ましとなれば、統括者である専務だって黙っているわけにいかないもの。
「いやあ、嬉しいねえ。成実ちゃんのような魅力的な女性と、あの故郷の地を再び踏めるとは。長生きはするものだよ」
「それでは、手配を整えましたらご連絡いたします」
「うん、楽しみに待っているよ直哉」
そう言って会長は、私の手をナデナデしながら名残惜しそうに立ち上がった。
「じゃあ私はこれで失礼するよ。皆、邪魔して申し訳なかったね」
「邪魔なんて、とんでもございません会長」
「久しぶりにご尊顔を拝見できて、とても嬉しかったです」
「ありがとう、ありがとう。それじゃあ成実ちゃん、また会おうねえ」
ヒラヒラと手を振りながら会議室を出て行く会長を見送って、全員ふうっと大きく息を吐く。
会長旋風が吹き荒れたおかげで、さっきまでの険悪な状況は吹っ飛んでしまっていた。