御曹司さまの言いなりなんてっ!
強引にそう思い込んで、あたしはあのキスと彼の存在を記憶から抹殺しようとした。
でも、どうしても無理だった。
渇いた全身を包み込むように駆け抜けた、あの鮮烈な味と香り。
そして、林檎のように赤く濡れていた彼の唇の色と感触。
あの情景が、あたしの唇と目と脳に強烈に焼き付いてしまっている。
夏の強い日差しによって、まるで焼印を押されたように。
「おうちの人に連絡したいから、色々と質問させてね。名前は? 年は? 住所と電話番号は?」
「……名前は、遠山成実(とおやま なるみ)です。高校一年です。電話番号は……」
テキパキと質問しながらメモをとる看護師さんに淡々と答えながらも、あたしの心は沈んでいた。
あたしは、忘れられない。
きっとこの記憶からは一生、逃れられない。
真剣にあたしを見つめていた彼の黒い瞳を思い出し、まるで今この瞬間も彼に見つめられているような錯覚に戸惑う。
あたしは自分の動揺を抑えたくて、記憶を遮断するために静かに両目を閉じた……。