御曹司さまの言いなりなんてっ!

 ……思い起こせば、あれからもう10年経つのね。時の流れはあっという間だ。

 今よりもっと純粋だった当時は、不眠症気味になるくらい本気でショックを受けて悩んでいた。

 ファーストキスの相手が、彼氏でもなんでもない人だったっていう現実は、乙女にはかなり深い痛手だったもの。


 まあ、それでもまだ救いようのあるパターンだったとは思う。

 もしも発見者が彼じゃなくて、あの住宅街に住んでたおじいちゃんとかだったらと思うと、ちょっと寒気がする展開を想像してしまう。

 
 この夏新発売のUVファンデーションをポーチから取り出しながら、私は苦笑してしまった。

 結局、通報時に名乗らなかった彼とはその後、それっきり。

 両親が『娘の命の恩人にお礼を言いたい』と、彼のスマホの番号を教えてもらえるようにセンターに頼み込んだんだけれど。

『個人情報ですので教えられません』のひと言で、けんもほろろに断られてしまった。

 新聞に投書したりもしたんだけれど、名乗り出る人はおらずじまい。

 私がファーストキスを捧げた相手はunknown。正体不明な高校男子となった。
 
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