御曹司さまの言いなりなんてっ!

 不穏なセリフを吐きながら、何がそんなに嬉しいのかと思うほど専務はニヤけている。


「キミは知らないだろうけど、実は三ツ杉村はキミのお祖母様の生まれ故郷なんだよ」

「……は? 生まれ故郷?」

「キミのお祖母様と僕のお祖父様は、竹馬の友、というヤツさ」


 私は驚いて会長を見た。

 会長は畳に視線を落としたまま、専務の言葉を肯定するようにコクリと首を縦に振る。

 ……じゃあやっぱり、三ツ杉村がうちのおばあちゃんの出身地なの?

 私の地元がおばあちゃんの地元なんだろうと単純に信じ込んでいたから、何の疑問も抱かなかった。

 意外な事実に戸惑っている私の耳に、得意気な専務の声が聞こえる。


「しかも竹馬の友どころじゃなく、ふたりは結婚していたんだ」

「え!?」


 私はバッと専務を振り返った。

 い、いま何て言ったの!?


「昔、ふたりは結婚していたんだよ」

「結婚!? うちのおばあちゃんと会長が結婚!? 嘘!」


 上ずった声を上げた私は勢いよく会長の方に振り向き、穴が開くほどその姿を凝視した。

 会長は専務の発言を否定しようともせず、唇をキュッと結んで畳をじっと見つめたまま微動だにしない。

 その深刻な様子からこの話は事実なんだと察せられて、私はショックで息が止まりそうだ。

 し、知らなかった! 全然、まったく知らなかった!
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