御曹司さまの言いなりなんてっ!
何も言わない約束って、なんのこと?
疑問に満ちた私の視線から気まずそうに目を逸らし、部長は私の肩を抱きかかえて強引に部屋の外へ連れ出そうとした。
「部長?」
「いいんだ。成実はなにも気にしなくていいんだ」
「成実ちゃん待ってくれ! 私は……!」
「さあ行こう成実」
「あ、あの……?」
追いすがろうとする会長の懸命な表情と、強張った部長の表情を見比べながら、私は引っ張られるように出口へ連れて行かれた。
会長が言おうとしていることを、部長は知っている? 知ってて私に隠している?
なにを? なぜ?
へたり込んだ会長は私をじっと見つめたまま身動きもせず、ひどく辛そうな顔をしている。
その目は今にも、泣き出しそうに見えた。
悲壮な表情に胸をつまされ、私は会長から目を逸らすことができない。
な、なんだかよく分からないけど、本当に私このまま行ってしまっていいの?
「待てよ兄さん、逃げ出すのは卑怯なんじゃないか?」
「…………!」
突然聞こえた専務の声に、部長がギクリと立ち止まった。
いつの間にか出入り口を通せんぼするように立っていた専務が、薄ら笑いを浮かべている。
どこか愉悦の色が見えるその表情を見た部長のノドが、ゴクリと鳴った。
「遠山には知る権利があるだろ? いくら兄さんに都合の悪い事実だからって、隠しごとは良くないよ」
「直一郎、お前……」
「遠山、僕が事実を教えてやるよ。卑怯者の兄さんの代わりに」