御曹司さまの言いなりなんてっ!

 店までの短い距離を歩く間にも強い陽射しが燦々と降り注ぎ、半袖シャツから剥き出しの両腕を焼く。

 熱されて湿った空気に全身を包まれながら、それでも何となく気分が浮上していくのを感じた。

 やっぱり無機物ばかりに囲まれた部屋の中とは違って、外には風も、空も、雲も、緑もある。

 アスファルトやコンクリートまで生き生きしているように思えた。


 節約しなきゃならないけど、ちょっと贅沢して夏限定スイーツとか買っちゃおうかな。

 ホクホクしながらそんなことを考えている私の足が、ビクッと止まった。

 目の前に立つふたつの人影に驚いて、思わず手の中の財布を落っことしそうになる。


「牧村さん!? それに瑞穂も!?」

「遠山さん、突然すみません」

「成実! ずっと連絡してこないで何やってんのよもう!」

「な、何やってるって、そっちこそ何やってるのよこんな真っ昼間に。しかも私服で、仕事はどうしたの?」


 なんの前触れもなく出現した二人に、私は頓狂な声を出した。

 ちょっとヤメてよ! よりによってこんなダサダサな部屋着と、履き古しのサンダルと、ひっつめ髪の時に遭遇するなんて!

 気恥ずかしくて及び腰の私を見て、牧村さんと瑞穂はお互いの顔を見合わせながらハァッと大きな溜め息をついた。


「その様子じゃ、今日が日曜日だってことにも気付いてないのね」

「あ、今日、日曜だっけ?」

「成実ったらどんな生活してんのよ」

「とりあえずお元気なようで安心しました。もしかしたらご実家に帰ってしまったのかとも思っていましたが」
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