御曹司さまの言いなりなんてっ!
「あたし心配したんだからね! ショックなのは分かるけど、大人なんだから最低限の連絡くらいはしなさいよ!」
本気で苛立たしそうに怒鳴る瑞穂に、私は申し訳ない気持ちになった。
あまりに急転直下な事態をどう説明すればいいのか分からず、瑞穂にも誰にも、何も言っていなかったから。
さすがに退職願いを郵送で送り付けるのはどうかと思って、会社の受付まで出向いて届けはしたけれど。
見知った顔に会うのが嫌で、そのまま回れ右して帰ってしまった。
瑞穂にしてみればいきなり私の退職願いが届いたかと思ったら、その後はずっと梨のつぶて。
周囲では根拠のない噂話も出回っているだろうし、ビックリするやら心配やらでさぞ気を揉んだことだろう。
「ごめんなさい瑞穂。それに牧村さんにも失礼をしてしまいました」
「いいえ、謝らなければならないのは私の方ですから」
メガネの奥の知的で綺麗な目が、悲しそうだった。
「仕事とはいえ、私は遠山さんを傷つけてしまいました。申し訳ありませんでした」
「やっぱり牧村さんが私を探し出したんですか?」
「はい。その通りです」
素直に頷く彼を見て、私は納得した。
初めて会った日、自己紹介もまだの私の名前を知っていたのはそういう理由だったのね。
私と牧村さんの会話を心配そうに聞いていた瑞穂が、慌てて彼を擁護する。