御曹司さまの言いなりなんてっ!
たどりついた場所

 会長の四十九日法要を終えるのを待っていたように、村は秋色に変わっていった。

 濃緑一辺倒だった木々がいそいそと薄化粧を始めて、ほんのりと黄色や赤に染まってきている。

 すっかり涼しさを増した風に揺れるコスモスの可憐な姿が、道行く人々の心を和ませてくれていた。


 なのに、子どもってホント容赦ないのね。男の子は特に。

 こんなに綺麗に自生している花を、片っ端からブチブチ引っこ抜いていくんだもの。

 私は溜め息をつきながら、子ども達を軽く諌めた。


「こらこら、お花さんが痛がってるでしょ? 可哀そうよ」

「お花はイタイなんて、かんじないもーん」

「そーだもーん。おばちゃん、ばかー」

「おばちゃんだとー!? それに、バカって言った奴がバカ!」

「よせ、遠山。子どもと同レベルでケンカしてどうするんだよ」


 相馬さんと一緒に作業している部長が、ムキになってる私を見て笑った。

 相馬さんの林檎園では秋の大きな収穫へ向けて、着々と準備が進められている。

 本日、部長は農作業のお手伝い。私はお孫さんのお守りに朝から駆り出されていた。


 そう。部長はまだ、部長だった。

 彼の退職願いは、結局受理されなかったから。

 祭りの後、さすがに息子を放っておけなかった社長が、血相変えて村に飛んできた。

 そしてふたりでよくよく話し合った末、あの古民家を『一之瀬商事 三ツ杉村出張所』にすることが決まった。

 部長はそこに出向という形に収まり、この村の地域再興プロジェクトを続けている。
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