御曹司さまの言いなりなんてっ!

 少ない予算で回してるから、大したことは出来ないんだけど。

 高齢者を病院やスーパーへ送り迎えしたり、村の特産品を生かした商品開発を地元の組合と一緒にしたり。

 林檎関連商品を外部に売り込み始めたり。

 ここの林檎ジュースの味がすごく好評で、ちょっと有名なレストランから問い合わせが来たりしている。

 少しずつ、本当に少しずつだけど毎日、村は変化してきている。


 私は、この出張所にバイトとして雇ってもらうことになった。

 社長夫人は部長が本社から離れたことで落ち着いたのか、あの強烈な継子イビリはすっかり鳴りを潜めてしまった。

 それに専務の部長に対する態度が変化したことで、少し意識が変わってきたらしい。


 専務は、たまに電話をくれる。

 内容は仕事に関することばかりだし、なぜか部長じゃなくて私にばかり電話をかけてくるんだけど。

 専務室での一件以来、どうも懐かれてしまったフシがある。


『あんたさ、たまにはこっちに来なさいよ。兄弟そろって釣りでもしたら?』

『嫌だよ。僕は田舎はキライだ。それにミミズだって触れないし』

『ヤワい男だわねー。生粋のボンボンだわね』

『ボンボンって言うな。ボンボンって』


 そんな会話を電話口で話す私達に、部長は素知らぬ顔をしながらしっかり聞き耳を立てている。

 雪解けは、あるかもしれない。いつの日か。

 私はそんな風に感じている。
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