御曹司さまの言いなりなんてっ!

 この人、この若さでこの大企業の部長職なの? 私とほとんど変わりない年に見えるけれど。

 確かに彼が身に着けている物は、大企業の重役クラスでもなければ到底手が届かないような高級なものばかり。

 それで苗字が一之瀬、ということは……。

 きっと、ここの会社の社長の息子だ。じゃあ次期社長?


 そう思った途端に私の心は、濃いサングラスを装着したように色眼鏡で彼を見てしまう。

 この身に起きた悲惨な体験のせいで、どうも社長直系ボンボンは信用できない。

 特に三代目あたりとか、コイツはぜったい何かやらかすって気がしてたまらない。

 なんの根拠もない勝手な思い込みだけど。


 でもそんなことより私は、さっきから不思議な感覚を覚えて、妙に落ち着かない気持ちになっていた。


 なんだか……彼から目が、離せないんだけど……。


 なぜか知らないけれど、不思議と彼に目が惹きつけられて、どうしても視線を逸らせない。

 見れば見るほど、この不思議な感覚はどんどん強まっていく。

 いや、だからといって彼に一目惚れしたとかいう色っぽい話では、決してない。

 胸もまったくトキめいていないし、禅僧のように穏やかな鼓動のリズム感からみても、それは断言できる。
< 27 / 254 >

この作品をシェア

pagetop