御曹司さまの言いなりなんてっ!
一瞬の空白が、室内を覆う。
眉間の肉を引っ張ったままポカンとしている私に、全員の視線が痛いほど集中していて、ようやく自分が置かれている状況に気が付いた私は、急いで立ち上がって答えた。
「は、はい! 遠山成実です!」
「よし、採用」
「…………は?」
「採用だ。俺について来い。仕事の内容を説明する」
そう言ってさっさと扉に向かって歩き出した一之瀬部長の背中に向かい、試験官の社員が慌てて声をかける。
「お待ちください一之瀬部長! これから試験を始めます!」
「ああ、どうぞ始めてくれ」
「いえ、ですからその、部長からのご挨拶等はよろしいのですか!?」
「全部任せる」
一之瀬部長は振り返りもせず、扉を開けて会場から出て行ってしまった。
パタンと閉じた扉を眺めながら、試験官をはじめ、全員揃って洩れなく呆気にとられてしまっている。
もちろん私も例外じゃない。直立不動のまま、口をパカッと開けて部長が出て行った扉をじっと見つめていた。
なんなの、これは?
あの人いま、私になんて言ったっけ?
採用? さいよう? 採用って……。
私が……入社試験に合格したって意味なの……?
固まったまま身動きできない私の手を、隣の瑞穂がまたバシバシと引っ叩く。
「なにやってんの成実! あの人行っちゃうよ!?」
「……行くって、誰がどこへ?」
「あの人、ついて来いって言ってたじゃない! 行かなくていいの!?」