御曹司さまの言いなりなんてっ!
そこで私はようやく我に返った。
何がなんだか事情はぜんぜん分からないけれど、反射的にバッグを引っ掴み、大急ぎで試験会場から飛び出して左右をキョロキョロする。
どこ!? どこ行ったのイケメン部長!?
廊下の数メートル先を歩いて行く部長を発見した私は、その後ろ姿を目がけて急いで駆け寄った。
「遅い」
追いついた私をチラリと横目で見て、たったひと言。そして説明も無いまま部長はまた歩き出す。
置いて行かれたらたまらないとばかりに、私も慌ててついて行った。
「待ってください!」
「待たない。時間が惜しいんだ」
「そ、そうなんですか? じゃあ、待たなくていいので歩きながら聞いてください!」
早歩きの部長の歩幅に合わせ、セカセカと忙しく両足を動かす。
足の長さの違いは歴然だから、ついていくのもひと苦労だ。
ほぼ小走りの状態のまま、私は部長に向かって疑問を口にした。
「あの、どうして私が採用されたんですか?」
「なにか不満があるのか?」
「い、いえ」
「だろうな。お前は就職したくて試験を受けたんだ。それで採用されたんだから、なんの不満もないはずだ」