御曹司さまの言いなりなんてっ!
この人の言う通り、こんな立派な企業に採用されたことに対して不満なんて無い。
まるで宝くじ連番当選に匹敵するほどの、奇跡的な確率だもの。
けど、不満は無いけど不安はあるのよ。たっぷりと。
「私は筆記試験も面接も受けていません。なのにどうして採用されたのでしょうか?」
「そこにこだわる必要はない。俺がお前を取った。それだけだ」
「差し障りがなければ、ぜひその理由を教えていただきたいんです」
「必要ない」
「ですが……」
「俺の採用の判断に、お前は異議でも申し立てるつもりなのか?」
「…………」
少々、その言いざまにムカッときてしまった。
いや、もちろん路頭に迷っている私を採用してくれたご厚意には、異議申し立てどころか心から感謝を申し上げたい。
でも。でもよ?
なんにもしないまま、こんな大企業にいきなり顔パスで合格しちゃったのよ? 私。
持って当然の疑問に対して、この人は何も答えてくれないし。
妙に口調がつっけんどんで、態度からも微妙な冷たさを感じるし。
いつの間にか呼び方が、『キミ』から『お前』に格下げされているし。
うまい話には裏がある。裏を勘ぐりたくなるような空気が、この高級スーツからプンプン漂ってくる。
それにこの人は、なんといっても直系ボンボン3代目。
……4代目か5代目かもしれないけど。
とにかく無条件に信用しちゃ危険な気がする。過去に学んだ経験からして。
だから私は部長に向かってはっきり言った。
「私に採用試験を受けさせてください。その結果を見てから、採用するかどうかの判断を下してください」