御曹司さまの言いなりなんてっ!

「何してる。グズグズしないで早く入ってこい」


 何やら小難しそうな情報がカラフルに映し出されている電子ボードの真ん前で、部長が私を見ながら急かした。

「あ、はい、失礼します」と挨拶して、私は一歩だけ中に踏み込み、ゆっくりと頭を下げる。

 どうやら見た限りでは、ここにいる顔ぶれは全員、それなりの役職の人達らしい。

 男性社員も女性社員も推定年齢40~50代。

 皆さんなかなか高価そうなスーツに身を包み、ネクタイやら腕時計やらの小物も、それぞれ洒落ていらっしゃる。

 失礼があってはいけないと、ことさら丁寧にお辞儀をした。


 ……で。これからどうしろと言うのか。


 とりあえず言われた通りに入ったはいいけれど、自分が何の理由でここにいるのか皆目見当もつかず、緊張しながらその場に立ち尽くす。


「そんな所でなにを突っ立っている。ここへ来い」

「はい」


 私が隣に立ったのを確認して、部長がテーブルの面々に話しかけ始めた。


「席を外してすまなかった。皆に紹介しよう。彼女は本日の採用試験に合格した遠山成実だ」

「遠山成実と申します。よろしくお願い致します」


 この人達に対して、私の何をどう『よろしくお願い』するのか。

 自分自身よく分かってはいないけれど、よそ様に紹介されたら、そう対応するのが社会人。

 常識にのっとって再び深々と頭を下げる私の隣で、部長が言った。


「今日から彼女は、この責任者グループの一員だ。特に私の全面サポートをしてもらう」

「はい!?」

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