御曹司さまの言いなりなんてっ!

 マモルさんがタレ目をキュッと細めて、冷やかすように笑った。

 人の警戒心を解かせるような、すごく人懐こい笑顔に私の気持ちも緩んで、ついお口が軽くなってしまう。


「お金持ちの御曹司の気まぐれなんじゃないですか?」

「御曹司だからこそ、気の無い女性にここまでの待遇なんてしないわ。勘違いされて付き纏われたら、立場上大変なことになるもの」


 マモルさんはそう断言する。

 それって他人の目から見ても、これは常識外れなほどの厚待遇ってことよね。

 それでも自分が部長に一目惚れされたとは、やっぱりちょっと考えられない。


「付き纏ったりしませんよ。私、本当にただの部下ですもん」

「じゃあ、『キミをただの部下とは思っていない』って、彼からのアプローチなんじゃないの? 羨ましいわあ」


 マモルさんのその言葉に、私の心は少しだけ反応してしまった。

 下世話な話だけれど、このドレス等の支度金だって相当な額になるはずだ。

 部長にとっては、こんなのお小遣い程度の金額なのかもしれないけど。

 でもだからといって、部下の女性全員にホイホイこんな待遇なんて与えないだろう。

 いくら直系バカボンボンだとしても。


『筆記試験も面接も、そんなものは必要ない。俺に必要なのは、お前自身なんだ』
 

 部長の言葉が脳裏によみがえり、私は思わず頭をプルプル振ってマモルさんに叱られてしまった。

 そしてブローを終えて、ふわツヤのサラサラヘアになった私は、部長と牧村さんの待つ隣室へと移動した。
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