御曹司さまの言いなりなんてっ!
直一郎、か。
社長の直一の名前をもじって、直一郎と名付けたんだろう。
次男なのに一郎なんて、露骨に『こっちの方が跡取りだ』って周囲に宣言している名前よね。
できる? 普通。先妻が遺した長男を前に、そんなこと。
名前ひとつにしてもこの様子じゃ、部長は日頃から家族の中でどれほど疎外感を味わっていることだろう。
その心中を思うと居たたまれなくなって、私は思わず深い溜め息をついてしまった。
牧村さんも私と同じように重い溜め息をつく。
銀縁メガネの奥の、一重まぶただけど大きくて形の良い綺麗な目が、気遣わしげな色をしていた。
「部長が大学を卒業して入社した時、まずは現場で社内勉強を……という名目で、部長職を命じられました」
「なら弟さんも、最初は部長職だったんですよね?」
「いいえ。ちょうど弟さんが入社する時に、ぴったりのタイミングで当時の専務が突然引退したんです」
うわ、それってすごく胡散臭い。
「でもそれなら部長が専務に昇進して、弟さんが部長職に就くべきじゃないですか?」
「部長は重要な仕事をいくつも持っているから、いま現場から抜けられたら困る。とりあえず応急処置で弟さんを専務の座に据えよう。という話でした」
なるほど。そうやって一度専務の座につけてしまえば、後はもうこっちのもの。
というわけか。
私は同情のこもった視線で、笑顔で招待客に挨拶している部長の姿を見た。
和やかに懇談しているように見えて、その実、社長夫人が部長と客人の間にさり気なく入り込み、主導権を握っている。