御曹司さまの言いなりなんてっ!

 煌びやかな照明の光りに照らされながら楽しげに談笑する、何の不満もなさそうな社長一家。

 そして家族という名の彼らに背を向けて、この場から離れていく部長の後ろ姿を見比べる。

 ほんの数メートルしか離れていないのに、この隔たる距離はあまりに遠い……。

 私は華やかな笑い声に背を向け、やるせない気持ちを抱えながら部長と一緒に会場を出た。



 一階上の控え室には、会場を出てすぐのエレベーターで簡単に移動ができた。

 会長の付き人らしき初老の男性が、扉の前に控えている。

 部長とその人とは顔見知りなようで、お互い笑顔で軽く会釈をした後、付き人さんが扉をノックした。


「会長、直哉さんがお見えになりました」

「通しなさい」


 付き人さんが扉を開けてくれた途端、室内から生花の芳醇な香りが廊下へ漏れた。

 部長を先頭に控え室へ入ると、たくさんの豪華絢爛な盛り花が所狭しと飾られている。

 お花畑のような空間の真ん中には、金の四つ足丸テーブルと、染みひとつない純白のテーブルクロス。

 なんだかおとぎ話の絵本のような室内に、白髪の男性がひとり腰かけていた。


「おお直哉、久しぶりだね。よく来てくれたね」

「お祖父様、お誕生日おめでとうございます。遅れてしまって申し訳ありません」

「そんなことはいいから。さあ、ここへ来て座りなさい」

< 64 / 254 >

この作品をシェア

pagetop