御曹司さまの言いなりなんてっ!

「彼女は私のプロジェクトチームに配属になった新人です。遠山、会長に挨拶しなさい」


 部長に促され、私は牧村さんの陰から一歩、前へ進み出た。

 そしてお辞儀をしながら澄ました声で挨拶をする。


「遠山成実です」

「ほう、これはなんとも魅力的なお嬢さんだね」

「聞いてくださいお祖父様。今日の入社試験で、私は彼女を見初めたんです」


 頭を下げた体勢のまま、私は両目を大きく見開きながら固まってしまった。

 み……見初めた!? 見そめたぁ!?

 ちょっと部長!? な、な、何を言っ……!?


 心臓をドクドク鳴らしながら額にドッと汗をかく私の隣で、部長は平然とした口調で説明をする。


「ですので、彼女をプロジェクトのサポート役として任命しました。お祖父様がご発案のプロジェクトですので、ご挨拶をさせようと連れてきました」


 ……あ。なんだそういうことか。


 部長の言い間違いに気付いた私はホッと息をついて、心の中で部長に呼びかけた。

 部長、そこは“見初めた”じゃなくて、“見出した”って言うべきなんです。

 頼むからそんな、絶妙な言い間違えしないでください。

 会長に誤解されたらどうするんですか。早く言い直して下さ……。


「私はひと目見ただけで、どうしても彼女から目が離せなくなってしまいました」


 ……!

 私の心臓が、さっきよりも大きな音をたてた。
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