御曹司さまの言いなりなんてっ!
「じゃあ私は、何か茶に合う菓子でも出そうかね」
「いえ本当に! 本当にお気遣いなく!」
頼むから、そこにおとなしく座ってて下さい会長!
「会長、お茶とお菓子は私が用意いたします。遠山さんもどうぞ座って下さい」
ちょろちょろ動き回ろうとする会長を、牧村さんがうまく制してくれた。
「ん、そうかね? じゃあお願いするよ」
そう言ってやっと席に座ってくれた会長にホッとしながら、私も腰をおろす。
一代で地位と財を成した財界の重鎮なのに、なんでこんな迷惑なほどフットワークが軽いのかしら。この人。
きっと若い頃は、それこそコマ鼠のように働いていたに違いないわ。
老いても身に沁みついた、労を厭わないこの勤勉さこそが成功の秘訣なのかもしれない。
だからってお茶菓子探してチョコマカ動き回られても困るけど。
「プロジェクトというと、例のアレかな?」
「そうです。お祖父様の故郷の、三ツ杉村のプロジェクトです」
「直一郎の方から報告が上がってきてはいるが、書類だけでは現場の雰囲気は伝わってこないからねえ」
「よければ、一緒に視察に行きませんか?」
「この老体では、さすがに遠出は無理だよ。残念ながら」
三ツ杉村? 故郷?
初耳な単語に、私は小首を傾げた。
そういえばチラッと、地域振興のプロジェクトだと説明された記憶があるけれど。
「三ツ杉村はね、私の生まれ故郷なんだよ。田舎の、なんにも無い小さな古い村でね」
私の表情を読んだらしい会長が、笑いながら説明してくれた。